SNSや本では「自分軸を持とう」「他人に振り回されないで」とよく言われます。
けれど実際には、職場や家庭、友人関係の中で「自分の考えを通すなんて、空気が読めないかも…」「わがままだと思われたらどうしよう」と、躊躇してしまうこともあるはずです。
自分を大事にしたい気持ちと、誰かを困らせたくない気持ち。
そのどちらも本物だからこそ、心が揺れ動くのは当然のことです。
・自分軸を持つことがなぜ「迷惑」と誤解されやすいのか
・わがままにならずに自分を大切にする考え方
・周囲と調和しながら自分らしく生きる実践的なコツ
精神科専門医・指導医であり、SNS総フォロワー10万人以上の精神科医しょうが書きます。
自分軸ってなに?なぜ「迷惑」と感じてしまうのか
たとえば、
「本当は疲れてるけど、断ったら悪いかな」と無理に誘いを受けてしまう
「周りがそう言ってるから、自分もそうしなきゃ」と心に反して従ってしまう
こうした行動は、相手を気遣う優しさの表れでもあります。
でもそれが積み重なると、自分の気持ちが置き去りになってしまうんですよね。
そして問題なのは、自分の気持ちを大事にしようとしたときに、「迷惑かもしれない」「わがままに思われるかも」と、自分自身を責めてしまうことです。
実はこの背景には、以下のような心理的な傾向が隠れています。
- 「いい人」でいたい気持ち:幼い頃から「周りに迷惑をかけてはいけない」と教えられてきた人ほど、無意識に「自分を優先するのは悪いこと」と思い込みがちです。
- 過去の経験による思い込み:「前に自己主張したときに嫌な顔をされた」「意見を言ったら否定された」―そんな経験があると、「やっぱり私が悪かったんだ」と自分を押し込めてしまうようになります。
- 共感力が高く、空気を読みすぎる性格:HSP(繊細気質)の人や、人の感情に敏感な人ほど、「誰かの負担になるくらいなら、自分が我慢すればいい」と感じやすい傾向があります。
このような心理が重なることで、「自分軸=迷惑」という思い込みが生まれてしまうのです。
でも本当にそうでしょうか?
自分を大切にすることはわがままじゃない。その違いを知ろう。
「自分の意志を通したい」
そう思ったときに、「わがままだと思われないかな…」と不安になるのは、とても自然な感情です。
その違いを、まずはシンプルに整理してみましょう。
| 自分軸を持つ | わがまま | |
|---|---|---|
| 目的 | 自分の気持ちや価値観を大切にする | 相手より自分の都合を優先する |
| 姿勢 | 相手への配慮や説明がある | 相手の意見を無視する |
| 伝え方 | 丁寧に気持ちを伝える | 強引・一方的に押し通す |
このように比べてみると、「自分軸を持つこと」と「わがまま」は、目的も姿勢も伝え方もまったく異なるものだとわかります。
あなたの気持ちや限界をきちんと把握し、言葉にして伝えることは、むしろ相手との健全な関係づくりに役立ちます。
こんな伝え方なら、迷惑にならない
たとえば、友人に誘われたけれど本当は疲れていて休みたいとき。
⭕ OKな言い方:「ごめんね、今ちょっと体調が優れなくて…また次回、元気なときに行けたら嬉しいな」
このように、相手を思いやる気持ちを言葉に添えることで、関係を壊さずに自分の軸を守ることができるのです。
自分を大切にすると、相手にも優しくなれる
不思議なことに、自分の気持ちをちゃんと認められるようになると、他人の感情にも前より寛容になれることがあります。
なぜなら、自己尊重は他者尊重とセットだからです。
自分を押し殺してイライラを溜め込むより、小さくても自分の意志を表現した方が、結果的に人間関係もうまくいくのです。
自分軸を育てるためのセルフケア3選
「自分の気持ちに正直になりたい」
そう思っても、いきなり意見をはっきり言ったり、NOを言ったりするのは勇気がいりますよね。
そのための第一歩として、日常に取り入れられる心にやさしいセルフケアを3つご紹介します。
①ジャーナリングで「本音」を見える化する
自分の気持ちがよくわからないときは、ノートに書き出してみましょう。
たとえば、
- 今日、嬉しかったこと・嫌だったこと
- その時、自分はどう感じたか
- 本当はどうしたかったか
など、思いつくままに書いていくだけで、頭の中が整理されていきます。
「自分は何を大切にしたいと思っているのか」に少しずつ気づけるようになります。
②小さな「NO」を言う練習をする
いきなり大きな決断を伝えるのは難しくても、たとえば「今日は参加できない」「その日は都合が悪い」と、ごく小さなことから断る練習をしてみてください。
はじめはドキドキするかもしれませんが、「ちゃんと伝えても相手は受け止めてくれた」と感じる体験が、自信になります。
③自分をねぎらう言葉を声に出す
日々、自分を責めるような言葉ばかり口にしていませんか?
自己肯定感を育てるために、次のような言葉を意識的に取り入れてみましょう。
- 「今日もよく頑張ったね」
- 「それでいいんだよ、大丈夫」
- 「私には私のペースがある」
このような言葉を“声に出して”自分にかけてあげることが、心の土台をやさしく整えてくれます。
どれも大きなことを変える必要はありません。
ほんの少し、自分の気持ちに目を向けるだけで、「自分軸」は少しずつしなやかに、力強く育っていきます。
他人に迷惑をかけたくない気持ちとの付き合い方
「迷惑をかけたくない」―その気持ちは、とても優しく、思いやりにあふれた感情です。
人との関係において、「迷惑をかけないように」と気を遣いすぎることで、本当は言いたかったことを飲み込んだり、無理を重ねてしまったりすること、ありませんか?
そもそも「迷惑をかけない」は本当に可能?
たとえば…
- 体調不良で休んだら、誰かに業務がまわるかもしれない
- 自分の意見を伝えたら、相手の考えとぶつかるかもしれない
- 助けてもらえば、手間をかけることになるかもしれない
でもそれは、人間関係の自然な一部なんです。
お互いに少しずつ迷惑をかけ合いながら、それでも支え合っていけることこそが、信頼やつながりのあたたかさなのではないでしょうか。
本当の「迷惑」とは何かを見極める
でもここで一度、こう考えてみてください。
あなたが誰かに「少し頼られた」とき、どう感じますか?
多くの人は、「信頼されてるんだな」「自分が役に立ててうれしい」と感じるのではないでしょうか。
それと同じで、あなたが少し頼ったり、弱音を吐いたりしても、それを“迷惑”と思わない人はきっといます。
大切なのは、「遠慮する」ことではなく、「感謝と配慮をもって伝える」こと。
迷惑をかけたくない気持ちを抱きながらも、自分をゼロにしないことが何より大事なんです。
“誰かの優しさ”を受け取る勇気を持とう
時には、相手に助けられてもいい。
その瞬間に、「ありがとう」と言える関係は、とてもあたたかくて自然です。
だから――
「迷惑をかけたくない」という優しい気持ちを否定せずに、ときにはその気持ちをそっと横に置いて、“今の自分”を受け入れる選択もしてみてください。
まとめ
「自分軸を持ちたい」でも「迷惑だと思われたくない」。
この相反する思いの中で揺れ動くあなたは、とても誠実で、人とのつながりを大切にしたい方だと思います。
今日は、「自分軸=迷惑なのでは?」という問いに向き合いながら、その誤解や不安をひとつひとつ、ていねいに紐解いてきました。
最後に、もう一度お伝えしたいことがあります。
- 自分の気持ちを大切にすることは、わがままではありません。
- 他人と調和しながら、自分の意志を伝えることは可能です。
- 少しずつ、自分を認めることから始めれば、心の軸は育っていきます。
誰にも迷惑をかけずに生きることはできません。
だから、どうか怖がらないでください。
「自分の想いを大事にしていい」と、あなた自身に許可を出してあげてください。
今日の記事で感じたことや感想などをぜひコメントしてください。言語化はあなたの気持ちを浄化する過程です。


