大人のADHDって実はこういうこと 「だらしない」じゃない本当の理由

しょう
こんにちは、精神科医しょうです。
今日は私が診察している患者さんたちのお話をしながら、ADHDについて本音でお話ししたいと思います。

なぜADHDの話をしようと思ったのか

先週、診察室で28歳の女性患者さんが泣きながら話してくれました。「先生、私、もう自分がイヤになるんです。なんで普通のことができないんでしょう」って。

彼女はその朝も、大事なプレゼンがあるのに家を出るのに1時間もかかった。服が決まらない、資料が見つからない、鍵をどこに置いたか分からない。結局遅刻してしまい、上司に「いい加減にしろ」と怒られたそうです。

その時の彼女の表情を見て、私は心が痛みました。こんなに苦しんでいる人がたくさんいるのに、まだまだ理解が足りないんだなって。

医師になって10年以上になりますが、同じような話を何百回と聞いてきました。そして毎回思うんです。「この人たちは全然ダメじゃない。ただ、脳の特性が理解されていないだけなんだ」って。

今日は、実際にあった話を通して、 ADHDの本当のことをお伝えしたいと思います。 これは「怠け」でも「わがまま」でもない、脳の個性なんです。

 診察室で聞いた、患者さんたちが言われてきた言葉

ADHD外来をしていて一番心が痛むのは、患者さんたちが診断を受けるまでにどれだけ傷ついてきたかを知った時です。初診でお話を聞くたびに、「よくここまで一人で頑張ってこられましたね」って思います。

32歳営業職の女性Aさんのケース

Aさん
Aさん:「部長に『お前はやる気があるのか』って毎週言われるんです。でも、やる気はあるんです。ただ、頭の中がぐちゃぐちゃになって、何から手をつけていいか分からなくなって…」

Aさんは営業成績は悪くないんです。お客様からの評価も高い。でも、社内の事務作業が苦手で、報告書の提出がいつも遅れる。会議では良いアイデアを出すのに、議事録作成になると途端に手が止まってしまう。

私は思いました。「この人の能力を正しく評価してくれる環境があれば、きっと素晴らしい仕事ができるのに」って。

診断後、上司との面談に同席したことがあります。Aさんの特性を説明すると、部長は「そういうことだったのか。だったら報告書のフォーマットを変えてみよう」って言ってくださいました。今、Aさんは営業チームのエースです。

26歳、事務職の女性Bさんのケース

Bさんの母
Bさんの母親:「あの子は昔から落ち着きがなくて。女の子らしくしなさいって言っても、いつもそわそわして。もっと真面目にやればできる子なのに」

Bさんは初診の時、お母様と一緒にいらっしゃいました。お母様は善意で娘さんを心配されているのが伝わってきましたが、Bさんの表情がどんどん暗くなっていくのが気がかりでした。

「もっと真面目に」「女の子らしく」って言葉、きっと何百回と聞いてきたんでしょうね。診察の後、Bさんが「先生、私は病気なんですか?治るんですか?」って涙ながらに聞いてきました。

私:「病気じゃないですよ。あなたの脳は、ちょっと人と違う働き方をするだけです。それを理解して、上手に付き合っていけば大丈夫です」

その時のBさんの安堵した表情は、今でも忘れられません。

診断と適切なサポートで、みなさん本当に変わられるんです。

医師として説明したい「脳の個性」の話

私がいつも患者さんに説明している内容を、そのままお話しします。

診察で一番大切にしているのは、「ADHDは病気じゃない」ということを理解してもらうことです。これは脳の個性なんです。

私がよく使う「料理」の例え話

患者さんには、いつもこんなふうに説明しています。

しょう
「一般的な脳がIHクッキングヒーターだとすると、ADHD脳は薪ストーブのようなものです」って。

IHクッキングヒーター脳(一般的な脳)

ボタンを押せばすぐに適切な温度になる。火力調整も簡単。タイマー機能もついてる。「今から集中するぞ」と思えば、すぐに集中モードになれます。

薪ストーブ脳(ADHD脳)

火をつけるのに時間がかかる。でも一度燃え始めると、とても温かくて心地いい。時々火が強すぎて焦げそうになったり、急に火が弱くなったりもする。でも、この温かさは薪ストーブにしか出せないんです。

この例え話をすると、患者さんの表情がパッと明るくなるんです。「私の脳も価値があるんですね」って。

医学的には、前頭前野という「脳の司令塔」の働き方が違うんです。ドーパミンやノルアドレナリンという神経伝達物質の量や働き方に特徴がある。これは生まれつきの脳の構造の違いなので、「頑張れば治る」ものではありません。

研修医時代の私の大きな勘違い

恥ずかしい話ですが、私も最初はADHDをよく理解していませんでした。指導医に「ADHDって何ですか?」と聞いたこともあります。まだADHDが今ほど注目されていない時代でもありました。

でも、ADHD脳は、本当に構造的に違いがあるんです。fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)やPET(陽電子放射断層撮影)を使った複数の研究で、前頭前野の血流パターンや容積が定型発達者と異なることが確認されています。特に行動抑制や注意課題中の前頭前野の活動低下が報告されています。

浜松医科大学の研究(2020年)では、ADHDの重症度がドーパミンD1受容体の密度と相関することがPETスキャンで実証されました。24名のADHD患者と24名の対照群を比較した結果、前頭前野や線条体でのドーパミン受容体の結合能に明確な差が見られました。

その時、私は患者さんに申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。科学的根拠があることを、私が無知だったせいで「甘え」だと思っていたなんて。

それからADHDの専門書を読み漁り、分かったのはADHD脳には素晴らしい能力もたくさんあるということでした。

📚 ADHDの症状 – 医師として気づいた「3つの誤解」

何百人もの患者さんを診てきて分かったことがあります。ADHDの症状には、世間が大きく誤解していることが3つあるんです。

私が診察で一番力を入れているのは、「症状の見た目」と「実際に起きていること」のギャップを説明することです。ここを理解しないと、支援の方向性を完全に間違えてしまうんです。

❌ 誤解①「集中力がない」→ ✅ 真実「集中力をコントロールできない」

これ、本当に多い誤解なんです。

Dさん(35歳、会社員)のケースで気づいたことがあります。大事なメールを「後で返そう」と思うと必ず忘れる。会議中も真剣に聞こうとしてるのに、気づいたら全然別のこと考えてる。

しょう
Dさんは決して「集中力がない」わけじゃない。むしろ、興味のあることには何時間でも集中できる。問題は、「今、何に集中すべきか」を脳が判断できないんです。

これは車に例えると、「アクセルが壊れている」のではなく「ハンドルが効きにくい」状態。だから「もっと頑張れ(アクセル踏め)」じゃなくて、「ハンドルを補助する仕組み」が必要なんです。

この説明をすると、患者さんも家族も「そういうことだったのか!」って表情が変わります。支援の方向性が全く変わるんです。

❌ 誤解②「じっとできない」→ ✅ 真実「脳が刺激を求めている」

夜中のネットショッピングで15万円分購入してしまったEさん。「私、金銭感覚がおかしいんでしょうか」って深刻に悩んでいました。

しょう
これは「浪費癖」や「意志が弱い」のではありません。ADHD脳はドーパミンの分泌が少ないため、常に刺激を求めているんです。だから、足を動かしたり、衝動的に買い物したりするのは、脳が「刺激」を得ようとする自然な反応。

これを理解すれば、対策も変わります。「我慢しろ」じゃなくて、「健康的な刺激の与え方」を一緒に考える。例えば、運動、音楽、ガムを噛む、スクイーズボールを握る…脳が求める刺激を、別の方法で満たすんです。

✨ 誤解③「ADHDは欠陥」→ ✅ 真実「脳の個性、時に才能になる」

Fさん(31歳、プログラマー):「集中できる時は誰にも負けないんです。でも気づいたら12時間ぶっ通しでコード書いてて、水も飲まず、トイレにも行かず…体調崩しました」
しょう
ADHD脳は「集中できない」のではなく、「集中のオンオフが極端」なんです。普段は注意散漫だけど、興味のあることには「ハイパーフォーカス」状態になる。この時の集中力は、一般の人を遥かに超えます。

実際、シリコンバレーの起業家やクリエイティブ職には、ADHDの特性を持つ人が多いという研究もあります。「欠陥」ではなく「尖った才能」として捉え直すことで、患者さんの人生が変わることを何度も見てきました。

Fさんには「あなたの脳は、スーパーカーみたいなものです。使いこなすのは難しいけど、適切な環境なら誰よりも速く走れます」って伝えました。今、Fさんはフリーランスエンジニアとして大活躍されています。
しょう
症状を「性格の問題」として見るのをやめて、「脳の特性」として理解する。これだけで、患者さん本人も周囲も、接し方が180度変わるんです。そして多くの場合、その変化が人生を変えるきっかけになります。

💔 ADHDが最も辛くなる場面 「3つの共通パターン」

何百人もの患者さんの話を聞いて、気づいたことがあります。ADHDの人が最も苦しむのは、実は「症状そのもの」じゃないんです。

診察を重ねて分かったこと。患者さんたちが一番苦しんでいるのは、「周囲からの誤解」と「自己否定の連鎖」なんです。ここに気づいてから、私の診療スタイルは大きく変わりました。

💼 パターン①:現代社会が要求する「マルチタスク地獄」

Gさん(27歳、事務職):「毎朝『今日こそミスしないぞ』って自分に言い聞かせるんです。でも午後になると必ず何かやらかしてて…『今度ミスしたらクビかも』って不安で」
しょう
Gさんの問題は「能力不足」じゃない。現代の職場が求める「メールチェックしながら電話対応して企画書も作る」というマルチタスクが、ADHD脳の構造と根本的に相性が悪いんです。

実際、Gさんに「一つずつ順番にやっていい環境」を用意したら、驚くほど高いパフォーマンスを発揮しました。問題は本人じゃなく、「万人に同じやり方を強要するシステム」だったんです。

これを伝えた時、Gさんは号泣されました。「自分が悪いと思ってた。でも環境の問題だったんですね」って。この瞬間、私は医師として何を伝えるべきか、本当に理解しました。

🏠 パターン②:「見えない努力」は評価されない現実

Hさん(30歳、主婦):「朝から計画して、人の何倍も頑張ってる。でも夕方には何も終わってない。『怠けてる』って思われるのが一番辛い」

ここで分かった残酷な真実:ADHD脳は「段取り」「並行作業」「時間見積もり」の3つが構造的に苦手。でも、その「脳内で消耗している努力」は、他人からは見えないんです。

普通の人が「70%の力」で終わらせる家事を、ADHDの人は「150%の力」を使ってようやく50%完成させる。でも周りには「50%しかできてない怠け者」に見える。この不公平さが、患者さんたちを最も苦しめています。

しょう
Hさんには「あなたが毎日どれだけ頑張っているか、私には見えます」って伝えました。そして家族面談で、この「見えない努力」を可視化しました。夫の理解が得られた後、Hさんの表情が本当に明るくなったんです。

👥 パターン③:「誤解される優しさ」が生む孤独

Iさん(25歳、販売員):「友達が大事な話をしてる時、絶対に最後まで聞こうって思うんです。でも途中で別のこと考えちゃって…『ちゃんと聞いてる?』って言われると死にたくなります」
しょう
Iさんは誰よりも友達思い。でも「注意が勝手に逸れる」という症状が、「興味がない」「思いやりがない」と誤解される。その結果、本当は優しい人なのに、人間関係で孤立していく。

これ、ADHDの人が二次的にうつ病や不安障害を発症する最大の原因なんです。「自分は人として欠陥がある」という思い込みが、心を蝕んでいく。

「友達失くすのが怖い」って泣きながら話してくれたHさん。その時、私は医師として、もっと社会にADHDの正しい理解を広めなければと強く思いました。この動画を作った理由の一つでもあります。
しょう
ADHD患者さんの多くは、症状そのものより、「誤解される痛み」「努力を認められない悔しさ」「孤独感」で苦しんでいます。だから治療は、薬だけじゃない。本人の理解、家族の理解、社会の理解、この3つが揃って初めて、本当の回復が始まるんです。

クリニックで効果があった「小さな工夫」たち

ここからが、私が一番お伝えしたい内容です。患者さんたちと一緒に見つけた、生活を変える小さな工夫をご紹介します。

沢山のADHD患者さんを診てきて分かったことがあります。「完璧な解決策」はないけれど、「その人に合った工夫」は必ずあるということです。

スマホを「外付け脳」にする作戦

Jさん:「アラームを20個設定したら、忘れ物が激減!『薬飲む時間』『家出る15分前』『洗濯物取り込む』って全部に名前つけてます。会議のホワイトボードも全部写真に撮る。『ちゃんとメモしなさい』って言われてた時より、よっぽど覚えてます」

最初は「こんなにアラーム設定するなんて、病的じゃないですか?」って心配されていましたが、「眼鏡をかけるのと同じです。必要だから使うんです」って伝えました。

「こんな簡単な方法で変わるんですね」って驚かれる姿を見るのが、私の一番の喜びです。

🎵 「音の環境」を整える重要性

Kさん:「ノイズキャンセリングイヤホンを買ったら、人生変わりました。周りの音が気にならなくなって、初めて『集中してる』って感覚がわかりました」

ADHD脳は「聴覚過敏」を持つ方も多い。周りの小さな音が全部気になって集中できない。でも適切な音環境を作ると、驚くほど集中できます。「Lo-Fi Hip Hop」や「自然音」が効果的なのは、一定のリズムとホワイトノイズが前頭前野の活動を安定させるからです。

⏰ 時間感覚を「見える化」する工夫

Lさん:「『全部の予定に30分プラスしてください』って先生に言われて、最初は『時間の無駄じゃないですか?』って思いました。でも実際やってみたら、遅刻がほぼゼロに。『ちょっとスマホ見る』時に5分タイマーをセットしたら、『気づいたら2時間経ってた』がなくなりました」

ADHD脳の「時間見積もりエラー」は本当によくあること。でも「バッファータイム」と「タイマー」で劇的に改善します。こういう「小さな成功体験」の積み重ねが、自信回復につながるんです。

🤝 周りの人との「共同作戦」

Mさん:「上司にADHDのことを話したら、『それなら会議の資料、事前にメールするよ』『大事なことはチャットでも送るね』って配慮してくれるようになりました」

診断書を持参しての職場での配慮申請、私も何度か同行しましたが、思っている以上に理解を示してくれる職場が多いんです。ある患者さんの夫は「『怒る』のを『サポートする』に変えた。『なんで片付けられないの?』じゃなくて『一緒に片付けよう』って」と言ってくださいました。理解があるって、こんなに力になるんです。

ADHDで悩む全ての人へ

精神科医として多くの患者さんと出会ってきて、伝えたいことがあります。
もし今この動画を見てくださっているあなたが、「もしかして私もADHD?」って思っているなら、まず知ってほしいことがあります。

あなたは「ダメ人間」じゃありません。「努力が足りない」わけでもありません。ただ、一般的な方法があなたの脳に合っていないだけなんです。

診察室で見てきた「変化の瞬間」

診断をお伝えした時の患者さんの表情は、今でも鮮明に覚えています。最初は「私、病気なんですか?」という不安そうな顔。でも説明を聞いているうちに、だんだん表情が明るくなっていく。

「先生、じゃあ私がこんなに苦労してきたのは、私のせいじゃなかったんですね」
「今まで頑張り方が分からなくて、でもこれからは方向性が見えました」
「やっと自分のことが理解できました」

こんな言葉を聞くたびに、医師になってよかったなって心から思います。そして同時に、「もっと早くこの人に会えていたら」という気持ちにもなります。

だから私は、一人でも多くの人に正しい情報を届けたいんです。

ADHDの「隠れた才能」を目撃した瞬間

患者さんの中には、診断後に人生が大きく変わった方もたくさんいらっしゃいます。自分の特性を理解して、それを活かせる環境を見つけた時の輝きは、本当に素晴らしいものです。

  • クリエイティブな発想力:「普通の人が思いつかないアイデアが次々浮かぶ」って、会社で重宝されるようになった患者さん。
  • ハイパーフォーカス能力:プログラミングに集中すると、誰も追いつけないレベルの成果を出す患者さん。
  • 共感力と直感力:人の気持ちを敏感に察知して、カウンセラーとして活躍している患者さん。
  • エネルギーと行動力:思い立ったら即行動で、起業して成功した患者さん。

ADHDは「治す」ものではありません。「理解して、上手に付き合う」ものです。そして適切なサポートがあれば、必ず今より楽になります。

私が患者さんに必ずお伝えする言葉があります。「今まで人の何倍も努力してこられたんですね。もう一人で頑張らなくて大丈夫ですよ」って。

最後にお願いしたいこと

もし「もしかして私もADHD?」と思われたら、ぜひ専門医にご相談ください。セルフチェックや ネット情報だけで判断せず、きちんとした診断を受けることが大切です。

そして、もし周りにADHDの特性を持つ方がいらっしゃったら、「頑張って」という言葉ではなく、「大変だね、何かできることはある?」という理解と共感を示していただけると嬉しいです。

あなたは決して一人じゃありません。理解してくれる人、サポートしてくれる人は必ずいます。そして私たち医療者は、いつでもあなたの味方です。
もしこのお話が少しでもお役に立てたら、コメントで教えてください。そして同じように悩んでいる方がいらっしゃったら、ぜひこのブログをシェアしていただけると嬉しいです。
あなたは「だらしない」んじゃない。
あなたは「やる気がない」んじゃない。
あなたは「ダメ」じゃない。あなたは、かけがえのない個性を持った、素晴らしい人です。
その個性を理解して、一緒に歩んでいきましょう。